復讐と鬣のロンド 六
2007年 05月 12日
六話 涙の理由
「右翼防衛陣崩壊! 後方の部隊が敵を食い止めています」
「左翼の部隊が救援を求めています!」
「後方部隊を中心に向け、左翼部隊は敵を迎撃しつつ、中央と合流。意地でも、物資を守れ」
「ふぇ~ん」
「泣くな、グラム」
大佐から文字通り特訓を身体に刻まれたグラムは訓練を終えていた。
今はベゼルの代わりに隊を指揮するフランの傍で、ごく安全な任務を実行していたはずだった。
「中央前線崩壊! 敵、来ます」
「弓隊はスパイダーウェブ準備。ソーサラーは続けて、スパークフレア。後に、全軍撤退!」
形勢は明らかにフラン達の不利に働いていた。
海辺沿いを通る物資の輸送中、突然海から押し寄せた敵に奇襲を受けた。
部隊が横殴りに押される中、隊形を整えたものの。徐々に陸地に後退していた。
そして隊の前線は完全に崩壊し、残りの者は蜘蛛の子散すように逃げ出した。
けれど、場所は大半をネツァワル国は所有するビクトリオン大陸。そのため逃げ帰る拠点には困らなかった。
もちろん、普通の方向感覚ならばである。
眼前には二種類の薄青い情景が水平線の向こうに伸びていた。
「海は広いですね~」
「・・・ ・・・それ以上言ったら、泣いてやる」
陸地方向に逃げ遂 せたとばかり思っていたフランは、真逆の海辺にいた。
あいかわらず天才的な方向音痴をおしみなく発揮している。
「海風の逆に行ったのに・・・ ・・・」
「あの、フランさん? ここは山から吹き降ろす風の方が強いんですよ?」
的確な説明を受けるフランは「うー」とだけ唸って、何も言い返せなかった。
幸いまだ追撃を続けているのか。敵兵の姿は見えず。その上、彼女達が隠れている場所は高い草が多く。遠目で見つけられることはまず無い。
「味方が近くにいれば、どうにかなるのに」
フランはマフラーに顔を沈めて考え込み。隣のグラムは何やら思いついたらしく、隅でコソコソと動いていた。
その一連の行動とは、乾いた草を集め、空気の通りが良いように積み上げる。最後に剣を振ってブレイズスラッシュを放ち、着火。
「フランさん! フランさん!!」
「何」
振り返ったフランは当然、絶望的に驚いた。
「こうやって狼煙を上げればきっと味方が気付いてくれるはずです」
「この、天然少女!」
フランはスカウトらしい素早い動きで焚き火を一蹴。
だが飛んだ焚き火の一部が火種となり。草の群生に火が放たれた。
それを見て、二人は慌てた。
「た、大変です!」
「逃げるしか、ない」
二人は踵を返し、まだ燃えていない草むらから外に飛び出して難を逃れた。
しかし、更なる一難が外で待っていた。
「火遊びは危険だな。小僧の相棒」
茂みから脱出した二人を待っていたのは、相変わらず大柄と包帯の目立つヴァンであった。
「敵に居場所を教えるとは、とんでもない馬鹿者が紛れ込んでいるようだな」
フランの後ろに隠れているグラムは申し訳なさそうに俯いた。
「そんな馬鹿を、見逃してくれたら嬉しいけど」
フランは腰から短剣を抜き、構えた。けれども戦うつもりなど微塵も無い。なぜならば彼女は、一度ヴァンと戦って負けている。
その理由を抜きにしても、戦うことにメリットなど無い。
「はいそうですか。などと言うと思うか、小娘」
「私の名は、フラン。小娘言うな。まるで私が未熟者みたいになる」
「みたいではなく、ただ事実を言っている。それに、小娘も俺の名を知らんだろう? 教えるつもりはないがな」
一度名乗ったため、大佐はヴァンの名前を知っている。一方、居合わせたフランは気を失って名前など知る由もない。
それは首都で休んでいるベゼルとて同じであった。
「貴方の名前なんて、興味ない」
言うや否や、ヴァイドダークネスの技で視界を奪おうと接近した。
「奇襲に不意打ち、闇討ち、その他全ては通じない。卑劣な技で我は殺せぬ」
ヴァンは人並みはずれた速度で鎌を回転させ、技を四散させた。
そのまま反則級のスピードを乗せ、足元に落下した。
落ちた鎌はフランを風圧で突き飛ばし、茂みの中に突き飛ばした。
そしてグラムは、ヴァンの前に肉薄した。
「―――グラムか」
ヴァンは顔を覗き込み、彼女の名を呼んだ。
見知らぬ者に名前を呼ばれたグラムは驚き、慌てた。
それでも大佐の特訓のおかげか、身体は危機感を感じ自然と夕張を握り締め、突き出した。
ヴァンはグラムを見つめたまま、邪魔な刀を素手で捕らえた。
「こ、この―――」
足でヴァンの身体を蹴飛ばそうとしたグラムは、刀に滴が落ちているのに気がついた。
滴は血のように赤い液体ではなく。ヴァンの紅い目元から零れ落ちる淡い湖水のような滴だった。
「お前は我を知っている。我はお前を知っている・・・ ・・・、我が誰かをお前は分かるはずだ。愛しき者よ」
「!?」
グラムは眼を丸くして驚いた。目の前にいるこの男、いやこの敵は何故自分に親しき言葉をかけるのかを。
グラムは自分の記憶を呼び起こすが男が誰であるか分からない。その間に、茂みから飛び出す小柄な体躯があった。フランである。
フランは飛び出し様に再びヴァイドダークネスを放った。
今度はヴァンの不意を衝いたため、ヴァンの眼が眩み顔を抑えて後ずさりした。
「逃げるよ」
「ま、待ってください」
技を喰らわせ隙ができたのを確認してフランはグラムの手を引いた。
ところが全く動こうとしないグラムにフランは業を煮やし、無理矢理に引きずった。
引きずられるグラムは自分から離れていくヴァンに向かって叫んだ。
「貴方は・・・ ・・・、誰なのですか」
ヴァンは答えず、フランは見向きもせず、二人のネツァワル兵は戦線から離脱した。
一旦書いた六話目はボツになったので、書き直しに時間がかかりましたw
ところで、AT通信なるものを皆さんは知っているでしょうか?
略称を取ると、Acess total News agency。というそうです。
その中に、カセドリア国の二号が最近出されたそうですが。そのなかにショートショート(以下SS)なる物がありました。
でも、はっきり言うとSSじゃなくて連載小説なんですけどねw
SSは本来二千字弱で書き切る一話のみの小説を言うそうですから・・・、ニュアンスがちょっと違うのではと思うのです。
そして自分が言いたいのはそんなどーでも良い事ではないのです。
そのSSには今、三作ほど置いたあるのですが。その中の「Ring of the Kingdom」は中々良いものだな。と思いました。
でもどちらかと言うとうらやましいの部類に入るのですがねw(前にも同じ事を言ったような・・・
その内容はカセドリアの傭兵達が主役なのですが、世界観を上手く使った。それに傭兵や騎士的な言い回し方がお上手なのです。
特に、世界観を上手く使っているのが感心するのです。
うー・・・、自分も自然に世界観が使えるようになりたい―――。
その他二作の「My Saint Queen」や「3 color's」もオススメですよ~。
後、もしかしたら他の国の記事にもSSあるかもしれないので今度見てきます。
途中で思ったのだが、他人の小説についての何かしらを書くのは問題かもかな・・・。文句がきたらどうしよう。とりあえずその時は削除かな?
「右翼防衛陣崩壊! 後方の部隊が敵を食い止めています」
「左翼の部隊が救援を求めています!」
「後方部隊を中心に向け、左翼部隊は敵を迎撃しつつ、中央と合流。意地でも、物資を守れ」
「ふぇ~ん」
「泣くな、グラム」
大佐から文字通り特訓を身体に刻まれたグラムは訓練を終えていた。
今はベゼルの代わりに隊を指揮するフランの傍で、ごく安全な任務を実行していたはずだった。
「中央前線崩壊! 敵、来ます」
「弓隊はスパイダーウェブ準備。ソーサラーは続けて、スパークフレア。後に、全軍撤退!」
形勢は明らかにフラン達の不利に働いていた。
海辺沿いを通る物資の輸送中、突然海から押し寄せた敵に奇襲を受けた。
部隊が横殴りに押される中、隊形を整えたものの。徐々に陸地に後退していた。
そして隊の前線は完全に崩壊し、残りの者は蜘蛛の子散すように逃げ出した。
けれど、場所は大半をネツァワル国は所有するビクトリオン大陸。そのため逃げ帰る拠点には困らなかった。
もちろん、普通の方向感覚ならばである。
眼前には二種類の薄青い情景が水平線の向こうに伸びていた。
「海は広いですね~」
「・・・ ・・・それ以上言ったら、泣いてやる」
陸地方向に逃げ
あいかわらず天才的な方向音痴をおしみなく発揮している。
「海風の逆に行ったのに・・・ ・・・」
「あの、フランさん? ここは山から吹き降ろす風の方が強いんですよ?」
的確な説明を受けるフランは「うー」とだけ唸って、何も言い返せなかった。
幸いまだ追撃を続けているのか。敵兵の姿は見えず。その上、彼女達が隠れている場所は高い草が多く。遠目で見つけられることはまず無い。
「味方が近くにいれば、どうにかなるのに」
フランはマフラーに顔を沈めて考え込み。隣のグラムは何やら思いついたらしく、隅でコソコソと動いていた。
その一連の行動とは、乾いた草を集め、空気の通りが良いように積み上げる。最後に剣を振ってブレイズスラッシュを放ち、着火。
「フランさん! フランさん!!」
「何」
振り返ったフランは当然、絶望的に驚いた。
「こうやって狼煙を上げればきっと味方が気付いてくれるはずです」
「この、天然少女!」
フランはスカウトらしい素早い動きで焚き火を一蹴。
だが飛んだ焚き火の一部が火種となり。草の群生に火が放たれた。
それを見て、二人は慌てた。
「た、大変です!」
「逃げるしか、ない」
二人は踵を返し、まだ燃えていない草むらから外に飛び出して難を逃れた。
しかし、更なる一難が外で待っていた。
「火遊びは危険だな。小僧の相棒」
茂みから脱出した二人を待っていたのは、相変わらず大柄と包帯の目立つヴァンであった。
「敵に居場所を教えるとは、とんでもない馬鹿者が紛れ込んでいるようだな」
フランの後ろに隠れているグラムは申し訳なさそうに俯いた。
「そんな馬鹿を、見逃してくれたら嬉しいけど」
フランは腰から短剣を抜き、構えた。けれども戦うつもりなど微塵も無い。なぜならば彼女は、一度ヴァンと戦って負けている。
その理由を抜きにしても、戦うことにメリットなど無い。
「はいそうですか。などと言うと思うか、小娘」
「私の名は、フラン。小娘言うな。まるで私が未熟者みたいになる」
「みたいではなく、ただ事実を言っている。それに、小娘も俺の名を知らんだろう? 教えるつもりはないがな」
一度名乗ったため、大佐はヴァンの名前を知っている。一方、居合わせたフランは気を失って名前など知る由もない。
それは首都で休んでいるベゼルとて同じであった。
「貴方の名前なんて、興味ない」
言うや否や、ヴァイドダークネスの技で視界を奪おうと接近した。
「奇襲に不意打ち、闇討ち、その他全ては通じない。卑劣な技で我は殺せぬ」
ヴァンは人並みはずれた速度で鎌を回転させ、技を四散させた。
そのまま反則級のスピードを乗せ、足元に落下した。
落ちた鎌はフランを風圧で突き飛ばし、茂みの中に突き飛ばした。
そしてグラムは、ヴァンの前に肉薄した。
「―――グラムか」
ヴァンは顔を覗き込み、彼女の名を呼んだ。
見知らぬ者に名前を呼ばれたグラムは驚き、慌てた。
それでも大佐の特訓のおかげか、身体は危機感を感じ自然と夕張を握り締め、突き出した。
ヴァンはグラムを見つめたまま、邪魔な刀を素手で捕らえた。
「こ、この―――」
足でヴァンの身体を蹴飛ばそうとしたグラムは、刀に滴が落ちているのに気がついた。
滴は血のように赤い液体ではなく。ヴァンの紅い目元から零れ落ちる淡い湖水のような滴だった。
「お前は我を知っている。我はお前を知っている・・・ ・・・、我が誰かをお前は分かるはずだ。愛しき者よ」
「!?」
グラムは眼を丸くして驚いた。目の前にいるこの男、いやこの敵は何故自分に親しき言葉をかけるのかを。
グラムは自分の記憶を呼び起こすが男が誰であるか分からない。その間に、茂みから飛び出す小柄な体躯があった。フランである。
フランは飛び出し様に再びヴァイドダークネスを放った。
今度はヴァンの不意を衝いたため、ヴァンの眼が眩み顔を抑えて後ずさりした。
「逃げるよ」
「ま、待ってください」
技を喰らわせ隙ができたのを確認してフランはグラムの手を引いた。
ところが全く動こうとしないグラムにフランは業を煮やし、無理矢理に引きずった。
引きずられるグラムは自分から離れていくヴァンに向かって叫んだ。
「貴方は・・・ ・・・、誰なのですか」
ヴァンは答えず、フランは見向きもせず、二人のネツァワル兵は戦線から離脱した。
一旦書いた六話目はボツになったので、書き直しに時間がかかりましたw
ところで、AT通信なるものを皆さんは知っているでしょうか?
略称を取ると、Acess total News agency。というそうです。
その中に、カセドリア国の二号が最近出されたそうですが。そのなかにショートショート(以下SS)なる物がありました。
でも、はっきり言うとSSじゃなくて連載小説なんですけどねw
SSは本来二千字弱で書き切る一話のみの小説を言うそうですから・・・、ニュアンスがちょっと違うのではと思うのです。
そして自分が言いたいのはそんなどーでも良い事ではないのです。
そのSSには今、三作ほど置いたあるのですが。その中の「Ring of the Kingdom」は中々良いものだな。と思いました。
でもどちらかと言うとうらやましいの部類に入るのですがねw(前にも同じ事を言ったような・・・
その内容はカセドリアの傭兵達が主役なのですが、世界観を上手く使った。それに傭兵や騎士的な言い回し方がお上手なのです。
特に、世界観を上手く使っているのが感心するのです。
うー・・・、自分も自然に世界観が使えるようになりたい―――。
その他二作の「My Saint Queen」や「3 color's」もオススメですよ~。
後、もしかしたら他の国の記事にもSSあるかもしれないので今度見てきます。
途中で思ったのだが、他人の小説についての何かしらを書くのは問題かもかな・・・。文句がきたらどうしよう。とりあえずその時は削除かな?
by inuis31
| 2007-05-12 20:15
| 小説