小さなミスターがネトゲやリアルで奮闘する御話


by inuis31
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カテゴリ:小説( 12 )


 十一話 エピローグ

 生まれはゲブランド。育ちもゲブランド。私はそこで貧乏であっても、誇りを忘れぬ貴族の家系だった。
 たとえ貴族の優遇措置が撤廃され、広大な屋敷の管理できずとも、商人に頭を下げてまで生き延びる事を選ばなかった。
 父も母も誇りのうちに餓死し、路頭に迷っていた私と兄は国を離れた。
 誇りのうちに生き残る事を選んだ後。兄は勤め先を見つけ、私は兄の言われるまま馬車に隠れネツァワル国に向かった。
 まさかその時、既に兄は復讐の算段をしているとは考えもつかなかった。

 グラムの兄、ヴァンが考えた作戦は至ってシンプルで大胆不敵なものだった。
 まずヴァンが指揮する隊が海から通じた洞窟の出口を確保し、本隊の到着を待ち。一挙にベインワットになだれ込む。
 だが、その作戦は脆くも崩れ去った。
 後々になって黙認していたナイアス王に代わり、その部下達が「反逆者ヴァンによる暴走」として侵略行為を全面否定。
 付け加え、ヴァンの指揮下にいた捕虜達の返還を求めた。
 その中に、グラムの名は入っていなかった。
「国家反逆罪により、貴殿を栄誉ある磔による非公開処刑とする」
 風呂もトイレも付いていない簡素と言うよりも貧乏臭い檻の中。盗みをして、人を殺して、人を欺いて、そして国を裏切った者が入れられる監獄。
 私。つまりグラムは最終的にベゼル達ネツァワルの味方をしたが、敵国に肩入れしたその罪は重かった。
「処刑執行はすぐだ。出て来なさい」
 城を守る兵がよく身に付けるような鎧と兜に細長い槍を持った男は、令状を綺麗に畳み檻の鍵を開いた。
 虚ろな眼差しをしたグラムは抵抗する素振りも見せず、ゆっくりと入り口の狭い扉から出てきた。
「ついて来なさい」
 兜を深く被って顔の見えない男は、それだけ言って背を向け歩き出した。
 もし、この時グラムに生き残ろうとする気力。または死を恐れて逃げ出そうと思ったならば、後ろから男の首を絞めそのまま逃げれただろう。
 だがあえて、グラムは何もし無かった。逃げたくも無かった。
 今更逃げたところで、グラムに生きる理由など無い。それどころか、自分の死に場所を求めたい気分でさえあった。
「これは、私の個人的な興味なのですが・・・」
 無言のまま歩いていた男は突然顔半分グラムに向け、話しかけてきた。
「貴女のお兄さんは復讐心があったそうですが、貴女自身はどうなのですか? できれば今までの経緯とか、それらを私は知りたいのですが・・・ ・・・ダメですかね」
 別に断る理由も無かった。
 身も知らずその男に、もうすぐ死ぬであろうグラムは自分が没落した貴族であったこと。兄はそれでゲブランド国以外の国も恨んでいた事。自分はネツァワル国に移住した時点では知らなかった事。
 意味も無くグラムは言語を垂れ流すように、男に聞かせた。男は背を向けたままで適当に相槌を打っていた。
 吐き出すようにそれらを言い終わった後、男はまた口を開いた。
「重ね重ね失礼ですが。私はベゼルさん達の知り合いなのですけれど、彼らのことを―――」
「失礼と思うなら聞かないでください」
 グラムは男の声を遮った。
 グラムにとって国の汚名を着ることよりも、裏切られたと思っている仲間のことを思うほうが辛かった。
 ましてや、他人に聞かされた話でそれ以上に思われたくは無い。
 それらを踏まえた上で、グラムは答えを返した。
「兵士さん。これだけは言っておきます。私はベゼルさん達を今までの誰よりも大事な仲間だと思いました。今もそうです。私の気持ちは死んでも変わりません」
 その私は、もうすぐ死ぬのである。
 男は、なるほどね。と適当に相槌を打った。今の精神不安定なグラムはその顔をズタボロに切り刻んで晒してやりたい心境であったものの、自分の犯す罪でこれ以上ベゼル達に嫌われたくなかった。
 近づく死は怖くない。ただこれ以上、此の世で心を傷つかせたくない。
 それがグラムの最後の願いだった。
「この先です」
 グラムの前を歩いていた男は突然横に下がると、半開きになった扉を指した。
 言われるがまま、グラムは迷わずゆっくりと踏み出し扉の向こうへ歩いた。
「ああ、しまった」
 グラムが扉から外に出てすぐ。男は下手な芝居を演じるようにわざとらしく頭を抱えた。
「これは困った。ここから先は私達衛兵の管轄外の上、出入りできない場所。このままでは罪人に逃げられてしまう」
 ・・・ ・・・。
 この馬鹿は何を言っているんだろう。と、グラムは正直にそう思った。
「困った困った。そうは思わないか? グラム」
 男は笑いながら頭に乗せた手で兜を脱いだ。
 作ったような丁寧語では無い。男の普段の声は、グラムの聞きなれた声だった。
「グラム。俺は最初っからお前がお前の意志で裏切ったなんて、毛頭に思っちゃいないぜ」
 兜を脱いだ男の素顔は、ベゼルであった。
「ベゼルさん・・・ ・・・?」
 グラムは訳も分からず。と言った風に首を傾げ、ベゼルを凝視した。
「おいおい。それだけか? もっと感動的な言葉とか、感謝の意とか、笑えない冗談ですよ~。とか言ってみたらどうだ。俺はお前を―――」
 そこでベゼルは言葉を止めた。
 なぜなら、こちらを見ているグラムが首を傾げたまま薄っすらと頬に涙の跡がついていたからだった。
 真新しい涙の跡から、留めなく滴が垂れ落ちた。
「私・・・ ・・・。何て言うか。その、あの、ごめんなさい。じゃなくて、何だろ。私、裏切ることしたのに、私」
「だから言ってるだろ。俺はお前を恨んでも拒んでも憎んでもいないって。悪いのは空の上にいるらしい、悪戯好きなクリスタルの神様だけだ」
 何も無かったように言い放つベゼルを見て、グラムはどうしようもなく声が言葉にならず。涙も止められなかった。
「そこにある馬車に乗ってすぐに国外に出ろ。どの道もうこの国に住む戸籍も荷物も無いから心配事も無いだろう。後はよろしく頼むよ行商のおっちゃん」
「おうよ」
 荷台の向こう側から顔を出したのは、グラムの入った棺桶を運んで来た行商人であった。
「だがな、仕事が終わったらちゃんと後金払いなよ」
「分かってるって、おっちゃんこそ兵士に捕まって仕事を台無しにしないでくれよ」
 何故か、グラムの知らないうちに逃げる算段が既に揃っていた。
「あの、あの、あの~」
「分かってるから。ほら」
 何かを言い出したいグラムの意向を無視し、ベゼルは衛兵が出る権限の無い場所を当たり前に進み。グラムを担いで荷台に放り投げた。
「グラム!」
 荷台に乗ったグラムを確認して、馬車の歯車はゆっくりと回りだし、進みだした。
 グラムは不恰好な体勢から身体を起こし、荷台の後ろから身を乗り出してベゼルを見た。
「ベゼルさん!」
「おうよ!」
 気軽に声を返すベゼルに向かってグラムは何かを言おうとした。
 だがそれよりも早くベゼルは口を開いた。
「お前が俺たち仲間と一緒に暮らせる平和を、俺が作ってやる。その時は帰って来い! そしたらお前が言いたかった言葉をちゃんと聞いてやるからな」
 ベゼルは大きく手を振り、呆然としかし内心嬉しさで満たされたグラムの姿が消えるまで見つめた。
 荷台の影が消えた後。
「あ~あ、罪人逃がしたら罰せられるよな。降格か実刑か罰金、でも終身刑と死刑は困るなぁ・・・ ・・・。ま、どうでもいいや」
 ベゼルは適当に笑ってその場を後にした。そして、そこから見上げた空は嬉々として、明るかった。

 何時の日か、ベゼルが思い描く。秩序と平和の世界が訪れるまで。
 彼女はこの青い空の元で、待っている。

あとがき(ネタバレというより裏話有
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by inuis31 | 2007-07-07 00:00 | 小説

復讐と鬣のロンド 十

 十話 終幕は悲しみと共に


 戦いは、刃が触れ合い鉄が奏でる序曲と共に始まった。
 グレートブリッジの上で、ブレイズスラッシュとストライクスマッシュがぶつかり合い。ベゼルとヴァンは互いの息遣いが聞えるほど肉薄した。
「お前では、我に勝てぬ」
 ベゼルは馬鹿が付くほどのほどの力で吹き飛ばされる寸前。耳元で嘲け笑うような台詞が聞えた。
「先の戦いでも思ったが、つくづくふざけた野郎だな」
 ベゼルは吐き出すように言い返した後、軽いステップで吹き飛ばしの勢いを殺す。
 続いて踏み込んだ足に力を入れると、剣を振って技を飛ばした。
 振った剣からは槍のような白く鋭い衝撃波が飛び、さほど遠くにいないヴァンを捉えた。
 衝撃波はヴァンの肉体を貫き、激しく血飛沫が飛んだ。
「この程度か!」
 茶々な攻撃と言わんばかりにヴァンは大鎌を振るうと、咆哮を上げた。
 その間を縫い。ベゼルはヴァンの懐に跳びこみ、燃える剣先で軽くヴァンの肉体を凪いでやった。
 傷は掠る程度の深さであったが、最高火力のブレイズスラッシュが腐った肉を原料に激しく燃えた。
「あづづ・・・ ・・・。五月蠅いぞ小僧が!」
 ヴァンは両腕を振って火を払う。共に振り回された鎌は唸りを上げ、火を掻き消し、難を逃れた。
 しかし、それだけではない。
 振り回して振り上げた鎌を、ヴァンの足元にいるベゼル目掛けて急速に迫った。
 ベゼルは深く攻撃をしていないので、これを難なくかわした。が、
「それで避けたつもりか」
 地に堕ちた鎌の威力は、通常ではありえない巨大な振動となって地を這い。周りを巻き込んだ。
 普通なら手が届くほどの周囲を攻撃するドラゴンテイル。だがヴァンの巨大な力と鎌の質量が加わり、常識を超えた技になっていた。
 周りの簡素なテントは原型を留めず崩れ落ち。飛び退いて攻撃範囲外に逃れたはずのベゼルさえ、足を取られ転倒した。
「これで終わりだ!」
 転んで無防備なベゼルに対し、転ばずに余裕の表情さえ浮かべているヴァンがゆっくりと歩み寄ってきた。そして、渾身の力を入れ大鎌をベゼルに振り落とす。
 その攻撃は仰向けのベゼルにとって、避け難い一撃だった。
 それでもベゼルは鎌から逃れようと身体を捻った。
「無駄だぁ、小僧」
 鎌がベゼルの身体を引き裂こうとした瞬間。ヴァンは嘲け笑い、ベゼルは諦めず身体を転がした。
「ガシュ」
 肉を引き裂く音。ではなく、木を切り裂く虚しい音が橋に木霊した。
 ヴァンの必殺の一撃は何も無い足元に食い込み、ベゼルには掠りもしなかった。
「戦いとは何が起こるか分からぬのぉ。そうは思わんか、ベゼル」
 それは諦めなかったべゼルの功績ではなく。横から武器を伸ばし、攻撃の軌道を変えたカール大佐の横槍を入れた結果であった。
「また邪魔をするのか。カール」
 ヴァンは巨大な鎌を肩に置き、不動の体勢で距離もとらず屈むような低い体勢で身構えた。
 戦いの中で一層燃え上がったヴァンの紅い目は、カールとベゼルの両方を睨みつけた。
「だが、死ねば皆同じ!」
 カールと始めて会った時と同じ事を言い。間髪入れずに再び鎌で地面を叩いた。
 遅れてカールも地を叩き、二つの衝撃は反響しあい。再度橋は大きく震えた。
 その震えにたまらずカールは転び、周りのテントの布は大きく飛び上がった。しかし、ヴァンはぴくりとも動かず、これに耐えた。
「俺の勝ちだ・・・?」
 ヴァンはカールに近づこうとした。近づき攻撃を仕掛けようとした。
 だが、目の前の光景に違和感を覚えた。
「俺の勝ちだ。ヴァン」
 それに気付く前に、後ろから声が聞えた。
 ヴァンはすぐさま後ろに振り向こうとしたが間に合わず。剣が左の胸を深く貫いた。
「お前でも、心臓を貫かれたら終わりだろうに」
 剣は半回転して、ゆっくり引き抜かれた。
 抜かれたヴァンは膝を突き虚空を見つめたまま、後方のベゼルに訊いた。
「・・・ ・・・何故動けた。小僧」
「簡単だ。お前みたいに伏せただけだ。意外に耐えれるもんだな」
 ヴァンは技を打ち出す瞬間。身体を伏せることで足元を安定させ、すぐに動ける体勢を保っていた。
 ベゼルは一度でそれに気付き、舞い上がったテントの布の陰から回り込んでいたのだった。
「こ、小僧があぁぁぁ!」
 ヴァンは吼えた。最後を悟り、復讐が成就し得ない現実に向かって、大声で唸った。
 全身にアドレナリンが循環し、ヴァンは死に向かう身体を奮い立たせた。
 生き物の身体は、心臓を抉られたとしても数十秒間は動ける。そのおかげで、ヴァンは再び立ち上がった。
「我は終わる。だがお前達もだ。復讐だ・・・ ・・・復讐だ!」
 ヴァンの身体は熱を持って紅く光り、周囲の空気が音を立てて蒸発していく。
 ヴァンは嘲け笑うような顔で、ベゼルの方を向いた
「ファイナルバーストを知っているか?」
 ファイナルバースト。それはキマイラが拠点を破壊するために、体内のエネルギーを起爆させる大技であり、自爆技。
 しかし、この技の代償にキマイラは絶命する。多大なる損害をその場に残して、だ。
 気付いたベゼルは咄嗟に剣を胸に構え、ヴァンに斬りかかった。
「遅いぞ小僧!」
 ヴァンは無造作に腕を振った。
 予想外の攻撃に、ベゼルは対処する術も無く。橋の手すりに叩きつけられた。
「ぎゃははは―――!」
 ヴァンは技の成功を悟り、天に顔を向け笑った。けれども、その考えは浅はかであった。
 ヴァンは横から強い衝撃を感じ、次の瞬間には橋の外へと吹き飛ばされていた。
「な、何故だ」
 ヴァンを突き飛ばしたのは、カールでもなくフランでもなく、ネツァワルの兵でもなかった。
「何故裏切った。グラム!」
 ヴァンの視線の先にいたのは、剣を携えたグラムであった。
「私はもう、何も失いたくない」
 グラムは橋の下に消える兄から―――、ヴァンから目を離した。
「貴方はもう・・・ ・・・、私の知っている兄さんじゃないから」
 言葉とは裏腹に、心の底から湧き出る悲しみが顔に出ており。細めた眼からは留めなく滴が流れ落ちていた。
「ごめんなさい」
 その後は言葉にならず、グラムは泣き崩れた。
 遅れて、ベインワットは空気を震わす爆発と爆音で悲しみと共に揺れた。

あとがき
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by inuis31 | 2007-06-14 23:03 | 小説

復讐と鬣のロンド 九


 九話 決戦の序章


 光の無い暗闇で、男は笑っていた。
 大柄なその男は全身に汚れた包帯を巻き、異様に眼を紅く光らせていた。
「血が沸き、肉が蠢く。心が鼓動し、魂が鳴動する。楽しみだ。これから起こる惨劇を思うと・・・ ・・・」
 男は大きな片手で顔を覆い、含み笑いをした。
 その後ろの、暗闇の更に向こう側で無数の兵は物言わず、沈黙を守っている。
「さぁ始めよう。滑稽で単純で残酷な劇を―――」
 男は両手を挙げ、見えない天を仰いだ。呼応するように、後ろの兵たちは前進を始める。
「我の望みは復讐だ」
 男と兵の一団は闇から光の当たる場所へ突き進んだ。

「あー、怠けすぎだな」
 間抜けな声が聞えた。
 重い鎧を身体に固定し、引きずるようなベゼルが声の主である。
 身体が重いのか辛いのか、顔には疲労の色が見える。
 歩く場所は見慣れたベインワットの洞窟内。朝の通りは商人、兵士、主婦、メイドが相変わらず忙しく流れている。
 いつもの通りの様子と違うのは、王宮に仕える人間の類がいつもより多い事ぐらいである。
「資料はアンさんに返した。大佐に完治の知らせはした。途中でフランに襲われた。と、今のところ計画通りか」
 三つの項目の内、最後の一つは疑問的であるものの。ベゼルは過去の情報を頭の中から消去した。
 そして、唐突に懐から手紙を取り出した。
『明日の朝、グレートブリッジで待っています。byグラム』
 その朝が今日なので、ベゼルはナメクジにも劣る足で向かっている。
「待っている、か。そういえば最近グラムが落ち込んでいるらしいから、それか? でもフランの情報は十回言ったら全て嘘だからな」
 ぶつぶつと呟きながら、ベゼルは既にグレートブリッジ前の門に立っていた。
 大きな門は閉めるのも億劫なので、相変わらず開いていた。
「・・・ ・・・?」
 ベゼルは開いた門の前で訝しげな表情をした。
 何故かは知らないが、自分の胸の奥に潜む本能が危険信号を挙げている。
 危険信号は胸の奥に止まらず、視覚的にも現れた。それは、誰もいないグレートブリッジの光景である。
 通常なら商人が声を張り上げて品物を売り、その商品を下見する冷やかしの客が歩き、雑談に熱心な若者達が鎮座している。
 それが、今は一人残らずいないのだ。
「まさかな・・・ ・・・」
 フランはともかく、グラムがここまで異質なイタズラをするとは思えない。
 門を抜けたベゼルは右手に剣を当て、慎重に橋の真ん中を歩き始めた。
「久しぶりだな。小僧」
 ベゼルの進行方向から、一度は聞いた覚えのある重く低い声が響いた。朝特有の白い靄に隠された向こう側には、確かに誰かがいた。
 旋風が吹き、靄が飛び、現れたのは兵士の一団と大柄な男だった。
「ヴァンだな」
 ベゼルは右手を振り上げるように剣を抜き、構えた。
「こんな山の中に何の用だ。迷子か? それとも玉砕の覚悟か」
「前者は小僧の相棒と同じではない。と、返そう。後者は我だけの一団では勝てない。と。返そう」
 ベゼルは「我だけの一団」の言葉が妙に引っかかり、まるで他にも多くの仲間がいるような言い方であった。
 しかし、ベインワットは自然の要所に守られ、大軍を阻む。ありえない。
「それはそうと、この小娘はどうしようか」
 ヴァンは自分の斜め右下を指した。そこにいたのは―――、
「エリス様!」
 彼女に気付いたベゼルは驚愕の顔を作り、それはすぐに怒りの表情となった。握られた剣は、更に強く圧迫され軋んだ。
 そのベゼルの姿に、ヴァンは鼻で笑った。
「ふん。この小娘は人質であり保険だ。我の復讐の代償には取るに足らない犠牲だ」
「復讐?」
「そうだ」
 ヴァンは笑いながら両手で空を仰いだ。
「クックック、復讐だ。それこそ我の成すべき事だ。我ら貴族を妨げ、財産も地位も誇りも奪い去った国に罪の精算を促す。そのために、我はエルソードに入隊した」
 ヴァンが言う復讐なら、確かにエルソード以外の国がそれに当たる。
 例えば、貴族の優遇処置を廃止したゲブランドにネツァワル。
 例えば、貴族に反乱を起こし主権を奪ったカセドリアとホルディン。
 その四つの国に復讐すると言うなら、やはりエルソードが適任であろう。
 だが、
「くだらないな」
 ベゼルはその一言で一蹴した。
「なんだと・・・ ・・・」
 自分の信念を侮辱されたヴァンは、表情に出さずに怒り。その代わりに顔が凄みを増した。
 ベゼルはそれでもヴァンに口を開かす隙を与えず、言葉を続けた。
「復讐だ仕返しだなど、くだらない。失う自分が悪いだろ。守れない自分が原因だろ。悲劇のヒロインやヒーローを気取るなよ!」
 ベゼルはズバリとヴァンを指差した。
 言われた当人のヴァンは怒っているのか悔しいのやら、水面の鯉のように口をパクつかせた。
「それに、復讐の為に身体を捨てたお前が許せない」
 急に話題を変えたこの言葉は、ヴァンに冷水を被せる効果が眼に見えるように表れた。
「・・・ ・・・何時知った」
「近年行われた錬金術の成功例と考察。の資料に名前が書いてあったよ。錬金術史上初の人体実験の成功だとな。学問に国境は無いと言うけど、調べた甲斐があった」
「何故錬金術関連だと?」
「お前から出る腐臭さ。キマイラと同じ臭いだよ」
 澄ました表情でベゼルは語り終え。入れ違うようにヴァンは含み笑いを浮かべた。
「流石は、と言っておこう。だが、我の正体を知ったところで何も変わらぬ」
「そうでもないぜ」
 ベゼルはそう言って、視線をヴァンの斜め右下に動かした。
 釣られるようにヴァンも見ると、そこには先程までいたエリスがいない。
「なっ、何処に行った!」
 ヴァンは部下に向かって吼えながら、周りを見回した。すると、答えは自分の眼からすぐ返ってきた。
 ちょうどベゼルの横で、エリスは不自然に浮いていたのだ。
「ご苦労フラン」
「どういたしまして」
 ハイドを解いたのはフランであった。
 ベゼルが饒舌を披露している隙に、フランがハイドで接近しエリスを奪還していたのだ。
「このおぉ!」
 明らかにベゼルの手の内で戦況が変化していた事に、ヴァンは苛立った。
 苛立ったが、その顔は突如として笑みに変わった。
 それはまるで、面白可笑しい物を見つけた餓鬼のようであった。
「そうだそうだ忘れていた。紹介しよう。我と共に復讐を果たす家族だ。小僧達も良く知っているはずだ」
 ヴァンは後ろに手招きをした。そこから恐る恐る出てきたのは、
「さぁ、グラム。復讐を果たそう。」
 ベゼル達の知るグラムだった。
 まるで立ち位置を間違えたように、平然とその場にいた。
「ごめんなさい。皆」
 ベゼルは手を握り締め、怒りが溢れようとするのを抑えた。悲しみも混じった―――それを抑えた。
「気にするなグラム。今は敵であろうとも、お前は俺の大切な仲間だ」
 ベゼルはグラムの姿から眼を背け、ヴァンに向き直り、剣を構えた。
「行くぞヴァン!」
「掛かって来い小僧!」
 悲しみと怒りを背負った戦いが、幕を切って落とされた。

あとがき
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by inuis31 | 2007-06-05 22:05 | 小説

復讐と鬣のロンド 八


 八話 昔とバナナ


「終わった・・・」
 窓から差す朝日が顔を覗かした頃、ベゼルは重く厚い本を閉じて一息ついた。
 大佐が頼んだとおり、錬金術師のアンは快くベゼルに書物と資料を提供してくれた。
 渡された本は基本的な「錬金術の本」から「近年行われた錬金術の成功例と考察」のようなマニアックな資料まで、幅広く用意してくれた。
 おかげでベゼルは昼夜をかけ、全てに眼を通す羽目になった。
「ったく。何で俺がたった敵兵一人の為に苦労しなくちゃならないんだよ」
 ベゼルは睡眠不足のためか、本に当り散らした。
 放られた一冊の本は、山積みされた本の一角に当たり、崩れた。
「・・・ ・・・」
 そのまま、跡形も無く微塵に切り裂こうか。と思ったが、アンの持ち物なので丁寧に積みなおす事にした。
 なぜならばメイド服で好評なアンは、隠れた噂によると中身は漢であるからだ。裏づけされるように、彼女の口調は男口調。服を纏った二の腕は張り裂けんばかりに太い。
 したがって、怒ると怖い。
 地面にしゃがみこんで本を積み直すと、ベゼルの後ろで微かに扉の閉まる音が聞えた。振り向くと、扉の傍にあるテーブルに食事が置かれていた。
「あいつ。またコソコソと・・・、隠れる必要あるのか」
 あいつ、と言うのはフランのことである。彼女は最近部屋に引き篭もりがちなベゼルの為に、わざわざ食事を持って来ている。
 だが、何故か何時も短剣スカウト特有の常時ハイドで姿を見せない。
 エリスに聞くところ、
「ふらんはきっと、はずかしーんだよ」
 と、お言葉を賜った。
 そう言われても、ベゼルでは言葉の意味を捉え切れなかった。
 大体フランは幼い頃から深い仲。敬遠される筋合いは無い。その仲は思い出すだけで腹が立つほどだ。
 例えば、子供の頃初めてベインワットに訪れた時。緊張していたベゼルの第一歩を落とし穴で沈めた奴がいた。無論フランである。
 他にも度々弄られた昔話が数え切れぬほどある。
 ―――あー、なんだかムカついてきた。
 ベゼルは心の中で悪態をついた。そして、彼女が今の様に変わった原因の出来事を思い出した。

 当時、ベゼルとフランの両人は大佐の下でお世話になり。それでも、まだ十歳に届かぬ年の頃だった。
「待てー、待て待てー!」
「こっち来るな! こっち見るな!!」
 首都から離れたビクトリオン大陸南に位置する草原。雑木林も多く、自然に恵まれた場所。
 幼きベゼルとフランは、豊かな自然の中を駆け抜けている。どっちかと言うと、かなり一方的に・・・。
「待てー。私が覚えたヴァイパーバイトの、実験台になれー」
「兵士になる前に死にたくない!」
 何故そのような大陸の端にいるのかは、育ての親でもあるカール大佐の任務があるからだ。
 任務といっても、カセドリア国と取引をするものである。
 ネツァワルの上等な武具と、カセドリア国の新鮮な食材を交換する。敵同士であるものの、互いに必要な品物の交換である。
 話は戻って、フランは逃げるベゼルを追いかける。
「待てー!」
 ベゼルが一瞬振り向くと、フランは既に短剣を抜いて振り回している。非常に危険なのでやめて欲しいと心の底から思った。
 ジグザグに逃げるベゼルに対して、追撃するごとく背中の向こうでヴァイパーバイトが煌いている。
「もうダメ・・・ ・・・」
 足をもつれさせたベゼルは倒れこむように、その場で止まった。
 ところが更に遠くに標的がいる事を見越した短剣は、ベゼルを飛び越し頭上を越えた。
 後は何も捉えず地面に刺さるか、虚空を切り裂くと思われた。しかし、『ザクリ』という肉を引き裂く音が聞えてきた。
 不審な音を聞きつけて、ベゼルが顔を上げる。その横をフランは必死の形相をしながら通り過ぎた。
「やばい、逃げろ。ベゼル」
 ふとフランの後ろを見ると、赤い皮膚を纏い羽の生えた爬虫類が四足歩行で這いずってくる。
 リザードフライである。
 身体の一部が傷付けられ、どうやら怒っているらしい。
 ベゼルは素早く立ち上がり、踵を返しフランを追いかけるよう逃げ出した。だが、体力は限界で思うように動かない。
「ぶぇ」
 その時、フランが短い草に足を取られ顔面から倒れこんだ。
 もし、この時フランを囮にすれば逃げられるのではないか。という打算がベゼルの脳裏に過ぎった。
 フランのベゼルに対する仕打ちを考えれば、妥当な選択であった。
 けれどもベゼルの中で葛藤が起こった。人を守る兵士になる者として、味方を見捨てる事は正しいのか・・・と。
 二つの気持ちに迷いながら、ベゼルは倒れたフランのすぐ傍を通ろうとした。
 一瞬、助けを求める悲しい瞳と眼が合った。
 ベゼルはそのまま走り過ぎた。そして足を踏み締め、拒む恐怖を無視して逆方向に進んだ。
「守れる者を守れないで、何が兵士だ! 何がネツァワルの兵だ! 俺は見捨てねぇぞ。かかってこいモンスター!」
 怯えた顔で声を張り裂け、ベゼルはリザードフライとフランの目の前にとび出した。
 短剣にも劣る貧弱な剣を両手で握り締め。勇敢にもリザードフライを睨み返した。
「ガァァァー!」
 鋭く唸りを上げるリザードフライは口の中に燻る火を溜め、灼熱の炎を浴びせようとした。
 すると、突然リザードフライの側面に無数の矢が突き立てられた。
 そのままリザードフライは驚きで眼を丸くして、絶命した。
「危ないところでしたね」
 その声は年若い少女の声であった。
 矢の飛んできた方向を見ると、弓を携える中年の男性とたおやかな少女がいた。
 少女の方は細身でブロンドの髪を持ち、神聖な雰囲気が感じられ、年は幼いベゼルよりも上である。
 後で分かった事だが、傭兵将軍ウィンビーンと聖王女ティファリスである。
 ウィンビーンは倒れたフランを抱き起こすと、擦り剥いた傷を介抱したり、カセドリア名産の黄色い果物を与えていた。
「怪我はありませんか?」
 介抱されるフランを見ていたベゼルに、ティファリスは近づいた。
「大丈夫です。僕とフランを助けてくださって、ありがとうございました」
「そのお礼はウィンビーンに言ってやってください」
 ティファリスは更に近づき、落ち込んだ様子のベゼルを優しくなでた。
「貴方は勇敢で優しいのですね。まるでウィンビーンを見ていたようでした」
「僕はあの人のように強くない・・・ ・・・」
 ベゼルは俯いた。
 もし、ウィンビーンの助けが無ければベゼルは死んでいるだろうし、フランを守る事さえできなかったであろう。
 それを考えると、ベゼルは自分の不甲斐なさに苛立ちを感じずにいられない。
 その時、ティファリスはベゼルと視線を合わすようにしゃがみこんだ。
「今は良いのです。大切な人を守ろうとする気持ちは、貴方を強くするのです。自分に諦めず、心を強く持つのです」
 そう言われると、ベゼルの気分は幾らか楽になった。
 その後、王女達と別れて、自分は強くなってみせると約束したベゼル。約束は今のところ及第点である。
 ティファリスが言っていた「大切な人を守ろうとする気持ち」は未だに分からない。
 ただ、フランの眼を見た瞬間に得た。心が熱くなるあの感情は似た意味を持つのだろうか。
 しばらくして、昔を思い出すことに疲れ。ベゼルはそのまま布団に潜り込み、寝てしまった。

「ごめんなさい」
 暗闇の中で、滴の落ちる小さな音が響いた。
「皆、ごめんなさい」
 また同じ謝罪を、誰とも知らずにその場で呟く。
「私には、使命があるから。やるべき事があるから」
 女性らしき者は小さな誰かを持ち上げると、暗闇の中を歩いた。
「兄さん。これで良いのですね。私達が再び元の生活を取り返すためには・・・ ・・・」
 女性は静かに窓を開いた。
「本当にごめんなさい」
 窓は小さく音を立て閉じられた。誰にも聞かれず、誰にも知られずに。

あとがき
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by inuis31 | 2007-05-25 00:08 | 小説

復讐と鬣のロンド 七

 七話 復讐の火種


 日が落ちたベインワットは暗かった。
 一日の仕事を終えた商人達はグレートブリッジの上にいない。代わりに物音一つしない暗闇の向こうに、グラムが居た。
 傍らの松明に顔を照らされ、その顔は考え事をしていた。
「私には家族も友達も地位も富みも・・・ ・・・。全てを失っているのに、何故ですか」
 海辺であった大柄な男、ヴァン。彼はグラムのことを知っているようであった。
 珍しく先輩であるフランが一緒に食事を取らないか、と聞いてきた。だが今は、愉快に話しながら食事の気分にはなれなかった。
 フランと別れたグラムは、ただ何もせず彼のことを考えていた。
 考えていると、唯一知っている男性の存在が頭をよぎったが体格も顔も違いすぎた。
 やはり、あの男の人違いであろうか。
「何を考えておられますか」
 不意に闇の向こうから若い男の声が聞えた。
 グラムはビクリと身体を震わせ、声が聞えた方向に眼を凝らした。
 そこには見慣れぬ鎧を着こなした若い風貌の兵が立っていた。
「ごきげんようお嬢さん。そして、さようなら」
 男はゆっくりと大斧を持ち上げた。
「私も何かと忙しいので、遊ぶつもりはありません」
 男は大斧を振り上げ跳躍し、グラムとの距離を瞬間的に縮めた。
 グラムは頭で考えるよりも早く左腕を動かすと、大斧と自分の間に盾を滑り込ませた。
 盾と斧はぶつかり合い。盾を伝って鈍い衝撃が全身を震撼させた。
 グラムは後ろに跳び、右手で刀を抜いて構えた。
「ネツァワルの兵ですか? そうであれば許します。でも違えば許しません」
「今更訊くのですか。敵か味方か問わずに飛び掛る者は敵ですよ。戦争と同じ様にね」
 男は話しながらゆっくりと足を動かす。グラムもそれに合わせてにじり足で下がった。
「中々用心深いお嬢さんですね。これでは間合いを詰められませんよ」
 男は言いながらもまた一歩近づき、グラムもまた下がった。
「しかしですね」
 男がグラムに進める歩が早くなる度に、グラムも素早く後退した。
 その距離は一向に縮まらない。しかし、永遠に逃げられるものでもない。
 グラムは大股で進む男に対して再び退いた。けれども後ずさりする背中が壁にぶつかり、動けない。
 グラムは心の中で自分の浅はかさに舌打ちした。
「ほら、もう逃げられない」
 男は最初の一撃と同じストライクスマッシュの構えを取った。
 グラムの方は盾を装備しているため、バッシュで迎撃できるものの。身体にエンダーペインをかけていない以上。失敗すれば敵のコンボで致命傷になりかねない。
「先ほど言うとおり、私はそんなに暇まではありません。私の任務を完遂するために人を探さなくてはいけません。では、終わりにしましょう」
 男は足を踏み込み、今にもグラムの懐に飛び込もうとしていた。
 ―――死ぬのですか、私。
 グラムは心の中で呟いた。
 ―――私が死んだら、私を失ったフランさんは悲しむかな、泣いてくれるかな。大佐はどうだろう、抱きしめてくるだろうから嫌だな。
 グラムは口元で少し笑った。
「余裕があるのですか」
 男は勘違いしたらしく、怪訝な顔をした。
 ―――でもベゼルさんはどうかな? 私が思うに不精面して立ってるだけかな。
 グラムは考えている内に、喧嘩したまま謝っていないベゼルの顔が思い出された。
「相手もこちらも国のためや、はたまた大切な何かの為に戦ってるんだ。同じ立場なのに哀れむ必要は在りもしない」
 ―――そう言っていたような気がする。
 自分もその中に入っているだろうか。それとも違うのか。もはや確認する事もできない。
 グラムは無言のまま涙した。
「どうやら怖気ついたようですね」
 男は勝ち誇った顔で大斧を振り上げ、飛び掛ってきた。
 その距離十五歩弱。
 ―――負けられない。
 グラムは盾を捨て、両手で剣を構えた。
 残り十歩。
「勝負さえ捨てたのですか。愚かですね」
 男は嘲け笑いながら、すぐ傍まで近づいてくる。
 グラムは再度、鞘に剣を収めた。
 顔には決意の色が見え、右手でそっと刀を掴んだ。
「私はもう何も失わない!」
 瞬間。男の眼前からグラムが消えた。
 代わりに男の身体から血が迸り、地面に崩れ落ちた。
「何が・・・、起こったの、ですか」
 男は手に滴る大量の血を見て、自分に深々と刻まれた傷を知った。
「か・・・、片手剣には、無い技です、ね。驚き、ました・・・ ・・・よ」
 男は言い終えると、身体に纏う全身の生気が消え去った。
 グラムは男を背に、刀を抑えたまま身を縮めていた。
「フーッ、フーッ」
 グラムの両眼は恐れと興奮で瞳孔が開き、息を荒げていた。
 鞘から覗く刃は血がこびり付き、グラムの勝利をせせ笑うように紅く煌めいていた。

 しばらくして、身体と心を落ち着かせたグラムは後ろを振り向いた。
 男は血溜りの中うつ伏せに横たわり、心臓は鼓動を止めていた。
 グラムは動かぬ人間の姿を見ても恐れない自分に恐怖し、身体を強張らせた。
 その後、男の鎧から覗く白い封筒に意識が向いた。
 男の話から密書であろう、と見当をつけたグラムは血で汚れぬよう慎重に封筒を抜き取った。
 一応確認のつもりか、グラムは封筒から綺麗に手紙を取り出した。
 ところが、内容を見始めたグラムの顔は豹変した。その顔の色は焦りと驚きに満ち。身体は凍りつく。
 そのまま陽が山頂の上から覗くまで、グラムは衝撃の余り、動く事ができなかった。
 

あとがき
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by inuis31 | 2007-05-16 21:55 | 小説

復讐と鬣のロンド 六

 六話 涙の理由


「右翼防衛陣崩壊! 後方の部隊が敵を食い止めています」
「左翼の部隊が救援を求めています!」
「後方部隊を中心に向け、左翼部隊は敵を迎撃しつつ、中央と合流。意地でも、物資を守れ」
「ふぇ~ん」
「泣くな、グラム」
 大佐から文字通り特訓を身体に刻まれたグラムは訓練を終えていた。
 今はベゼルの代わりに隊を指揮するフランの傍で、ごく安全な任務を実行していたはずだった。
「中央前線崩壊! 敵、来ます」
「弓隊はスパイダーウェブ準備。ソーサラーは続けて、スパークフレア。後に、全軍撤退!」
 形勢は明らかにフラン達の不利に働いていた。
 海辺沿いを通る物資の輸送中、突然海から押し寄せた敵に奇襲を受けた。
 部隊が横殴りに押される中、隊形を整えたものの。徐々に陸地に後退していた。
 そして隊の前線は完全に崩壊し、残りの者は蜘蛛の子散すように逃げ出した。
 けれど、場所は大半をネツァワル国は所有するビクトリオン大陸。そのため逃げ帰る拠点には困らなかった。
 もちろん、普通の方向感覚ならばである。

 眼前には二種類の薄青い情景が水平線の向こうに伸びていた。
「海は広いですね~」
「・・・ ・・・それ以上言ったら、泣いてやる」
 陸地方向に逃げおおせたとばかり思っていたフランは、真逆の海辺にいた。
 あいかわらず天才的な方向音痴をおしみなく発揮している。
「海風の逆に行ったのに・・・ ・・・」
「あの、フランさん? ここは山から吹き降ろす風の方が強いんですよ?」
 的確な説明を受けるフランは「うー」とだけ唸って、何も言い返せなかった。
 幸いまだ追撃を続けているのか。敵兵の姿は見えず。その上、彼女達が隠れている場所は高い草が多く。遠目で見つけられることはまず無い。
「味方が近くにいれば、どうにかなるのに」
 フランはマフラーに顔を沈めて考え込み。隣のグラムは何やら思いついたらしく、隅でコソコソと動いていた。
 その一連の行動とは、乾いた草を集め、空気の通りが良いように積み上げる。最後に剣を振ってブレイズスラッシュを放ち、着火。
「フランさん! フランさん!!」
「何」
 振り返ったフランは当然、絶望的に驚いた。
「こうやって狼煙を上げればきっと味方が気付いてくれるはずです」
「この、天然少女!」
 フランはスカウトらしい素早い動きで焚き火を一蹴。
 だが飛んだ焚き火の一部が火種となり。草の群生に火が放たれた。
 それを見て、二人は慌てた。
「た、大変です!」
「逃げるしか、ない」
 二人は踵を返し、まだ燃えていない草むらから外に飛び出して難を逃れた。
 しかし、更なる一難が外で待っていた。
「火遊びは危険だな。小僧の相棒」
 茂みから脱出した二人を待っていたのは、相変わらず大柄と包帯の目立つヴァンであった。
「敵に居場所を教えるとは、とんでもない馬鹿者が紛れ込んでいるようだな」
 フランの後ろに隠れているグラムは申し訳なさそうに俯いた。
「そんな馬鹿を、見逃してくれたら嬉しいけど」
 フランは腰から短剣を抜き、構えた。けれども戦うつもりなど微塵も無い。なぜならば彼女は、一度ヴァンと戦って負けている。
 その理由を抜きにしても、戦うことにメリットなど無い。
「はいそうですか。などと言うと思うか、小娘」
「私の名は、フラン。小娘言うな。まるで私が未熟者みたいになる」
「みたいではなく、ただ事実を言っている。それに、小娘も俺の名を知らんだろう? 教えるつもりはないがな」
 一度名乗ったため、大佐はヴァンの名前を知っている。一方、居合わせたフランは気を失って名前など知る由もない。
 それは首都で休んでいるベゼルとて同じであった。
「貴方の名前なんて、興味ない」
 言うや否や、ヴァイドダークネスの技で視界を奪おうと接近した。
「奇襲に不意打ち、闇討ち、その他全ては通じない。卑劣な技で我は殺せぬ」
 ヴァンは人並みはずれた速度で鎌を回転させ、技を四散させた。
 そのまま反則級のスピードを乗せ、足元に落下した。
 落ちた鎌はフランを風圧で突き飛ばし、茂みの中に突き飛ばした。
 そしてグラムは、ヴァンの前に肉薄した。
「―――グラムか」
 ヴァンは顔を覗き込み、彼女の名を呼んだ。
 見知らぬ者に名前を呼ばれたグラムは驚き、慌てた。
 それでも大佐の特訓のおかげか、身体は危機感を感じ自然と夕張を握り締め、突き出した。
 ヴァンはグラムを見つめたまま、邪魔な刀を素手で捕らえた。
「こ、この―――」
 足でヴァンの身体を蹴飛ばそうとしたグラムは、刀に滴が落ちているのに気がついた。
 滴は血のように赤い液体ではなく。ヴァンの紅い目元から零れ落ちる淡い湖水のような滴だった。
「お前は我を知っている。我はお前を知っている・・・ ・・・、我が誰かをお前は分かるはずだ。愛しき者よ」
「!?」
 グラムは眼を丸くして驚いた。目の前にいるこの男、いやこの敵は何故自分に親しき言葉をかけるのかを。
 グラムは自分の記憶を呼び起こすが男が誰であるか分からない。その間に、茂みから飛び出す小柄な体躯があった。フランである。
 フランは飛び出し様に再びヴァイドダークネスを放った。
 今度はヴァンの不意を衝いたため、ヴァンの眼が眩み顔を抑えて後ずさりした。
「逃げるよ」
「ま、待ってください」
 技を喰らわせ隙ができたのを確認してフランはグラムの手を引いた。
 ところが全く動こうとしないグラムにフランは業を煮やし、無理矢理に引きずった。
 引きずられるグラムは自分から離れていくヴァンに向かって叫んだ。
「貴方は・・・ ・・・、誰なのですか」
 ヴァンは答えず、フランは見向きもせず、二人のネツァワル兵は戦線から離脱した。

あとがき
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by inuis31 | 2007-05-12 20:15 | 小説

復讐と鬣のロンド 五

 五話 戦いの火は消えて・・・


 目の前が眩しかった。
 頭が覚醒したベゼルは窓の向こうから差し込む朝日を手で遮った。
 しばらくすると、周りの明るさにも慣れ徐々に視界がはっきりしてきた。
 明るさに慣れて完全に眼を開けると、そこは馴染みの深い自分の部屋であった。
「戦いはどうなったんだ・・・ ・・・」
 気を失う前にいた場所との違いに動揺したベゼルはシーツの中で身体を動かし、半身を起こそうとした。
 だが身体が痛い。全身からこみ上げる様々な痛みでベゼルは再びベットに横たわった。
 よく見ると、ベゼルの上半身には綺麗とは言えない状態で包帯が巻かれていた。ベゼルが動いた拍子に傷口が開いたらしく、白い包帯に血がにじんでいた。
 怪我は確かに痛かった。しかし、メルファリア人の回復力は伊達ではない。
 そんなに時間は経たず痛みが引き、弱い足取りであるが歩けた。
 部屋中をヨタヨタ歩きながら、ベゼルは体力を回復するために食料を探し始め。戸棚をあさった。
「こんな時に限って品切れか。腹が減ったなぁ」
 ベゼルが落胆していると、唐突に部屋のドアが軽く叩かれた。
「はいはい。誰だ―――」
 扉に歩み寄り開けると、そこにはネツァワルの王女。エリスが遠慮深げに立っていた。
「お、王女様。この度は何の御用事で」
 条件反射のごとく、ベゼルは肩膝をついた。急な動きで傷口が悲鳴を上げるが構わなかった。
 国民の大半は王女エリスに対して普通に接する事が多い。けれどもベゼルは意外に真面目なので、丁寧かつ礼儀正しく接していた。
「そんなに堅くならなくてもいいよー。傷をいためちゃうよ」
「いえ、自分の事はお気になさらずとも結構。エリス様、重ね重ね申し上げますがご用件は何でございますか」
 ベゼルは相変わらず小柄なエリスよりも身体を下げ、顔を伏せていると。真上で黒い影が揺れた。
「用事があるのは、私」
 突然強い殺気に近いものを感じ。ベゼルは身体を丸めて後ろに転がった。遅れて先ほどまで身体があった場所を短剣が的確に凪いだ。
「・・・ ・・・ちっ」
「何が『ちっ』だ! 俺を殺す気かお前は!! 天然ステルス機能発揮してるから気付くの遅れただけじゃねぇーか」
 エリスの後ろに立っていたのはフランだった。フランの格好はベゼルのように頭や身体を包帯で巻いていた。
 そして、手には手頃な小ささの果物ナイフが握られ、鍛錬を積んだ研ぎ澄まされた動きで揺れている。
「別に、ただ衝動的にお茶目な衝動に、駆られただけ」
「遊びで生死の寸劇を起こすな!」
 お互いに気を緩めぬ間合いを取り、油断なく構えを決めた。本当に単なる遊びで生死の遊戯を始めようとした時、エリスが二人の間に割って入った。
「止めようよ! けんかはだめだよ。私はただべぜるのおみまいに来ただけなんだよ。ふらんがどーしても一緒にって。あれ? どーしてふらんが怖い顔してこっち見てるの? とっても怖いよ」
 何やら言ってはいけないことを口走ったらしいエリスは、フランに酷く睨まれた。だが睨んでいるフランは実際の所、恥ずかしさで顔を紅く染めていた。
「ああ、そうか。ありがとうなフラン。そうならそうと言えよ。恥ずかしがる必要は―――」
 喋っている途中のベゼルに、振り向き様のフランのビンタが頬に炸裂した。
「痛て、何するんだ・・・ ・・・って。止めろ止めろ、もう殴る―――」
 そのままフランは一通りベゼルを叩き続けた後、顔を染めたままエリスの手を引いて部屋から立ち去ってしまった。
 その去り際に、皮の向けたリンゴが傍の机に置かれた。
 ベゼルは何気なく残された不恰好なリンゴを手にすると、何も言わずに噛り付いた。
「う、あ。口に、滲みる」
 口の中の傷に滲みる果汁で顔をしかめたベゼルは、それでも芯の周りまでも丁寧に食べつくした。
 食べつくした後、何気なく新鮮な空気が吸いたい為に窓に近づいた。
 窓からは禿げた山脈と澄んだ川が流れ、その手前には訓練場が存在していた。
 ふと見てみると、訓練場に顔見知りの人物がこちらを見ていた。
「むぅ。ベゼルよ、身体の調子はどうかの」
 居たのはカール大佐と、小脇でぐったりしているグラムだった。
 何故か声をかけると同時に鍛え上げた肉体を満遍なく見せるが如く。数々のマッスルポーズを見せ付けてきた。
「見よ! この巨体から繰り出される肉体美を!!」
 ベゼルはさらりと大佐を無視してグラムの方に視線を移した。
 彼女とは先日の戦場でいささか気まずい分かれ方をしたのだが。今のグラムはそんな小さな揉め事がどうでも良くなるほど切羽詰っていた。
「ベゼルさん助けてくださーい!」
 全身にすり傷や打撲、かすり傷などを受けているが全て軽い。それでも、グラムの疲労は顔を見ただけで分かるほど青くなっていた。
「大佐。何してるんですか」
「むぅ。今ここで根性の無い新兵に戦いの厳しさと辛さをその肉体に刻み込んでいるのだ」
「嫌ぁー。その表現セクハラですよー。助けてー」
 グラムは悲痛な叫び声を上げ、あまりの特訓の厳しさに泣いているようであった。
「ああ、頑張ってくださいね。大佐」
 結局、グラムはたった一言であっさりと突き放された。
「むぅ。もちろんだ。このワシが一肌脱ぐからには、必ずや一人前の兵士にしてみせてやろう!」
「嫌ぁー。それ以上脱いだら犯罪ですよー」
 可哀想なグラムは誰にも助けてもらえず、大佐の太い上腕筋によって引きずられようとしていた。
 その時、ベゼルは何を思ったのだろうか。少なくともグラムを助ける気は微塵もなかったであろう。
「大佐。頼みたい事があるんですが」
 ベゼルは大佐を呼び止めた、
「錬金術師のアンさんに、最近行われた錬金術の資料を見せてくれるように頼みたいんですよ。できれば、今すぐに」
「むぅ。身体が治るまでは何もせぬ方が良いのだが・・・、うむ。いいだろう。しかし、あまり努めすぎるではないぞ」
 そう言うと大佐は振り返り、「さぁ訓練の続きだ」と叱咤しようとしたがグラムは忽然といなくなったいた。否、逃げていた。
「むぅ。グラムよどこに行った? さては迷子だな! これは大変だ探さなくては。それではベゼルよ、また後で会おう」
 手を振った後、大佐は猛然と駆け出した。
 最後に見えたのは大量の砂塵と巨体を揺らす姿が遠くに見えただけであった。
 しばらく、ベゼルは崖下に流れる川のせせらぎ、通りすがりの渡鳥のさえずり、広場ではしゃぐ子供達の声を聞いてから、
「今日も平和だな」
 とベゼルは呟いて、寒い空気を締め出してからベットの中に潜り込んだ。
 後になって、皆無事であった事に気付くのだが・・・ ・・・。
 今は寝てしまった。

あとがき
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by inuis31 | 2007-05-01 22:09 | 小説

復讐と鬣のロンド 四

 四話 戦争の宴後半


 戦場は相変わらず悲鳴と怒声と鉄が触れ合い奏でる交響曲が響いていた。
 戦いの中。ベゼルは僻地を巡回しながら敵兵を倒していたのだが、
「お前は・・・ ・・・誰だ?」
 渦巻く戦塵の中ベゼルは倒れ伏しているフランを見つけ、抱き起こしていた。
 その二人のすぐ傍には、常人の二・三倍も背丈がある巨大な男が立っていた。
 男は身長と比べれば細身で、黒衣の服を纏い。露出するはずの部分は満遍なく巻かれた包帯に隠されていた。
「殺す奴等に教える名は無い」
 男は顔に巻かれた包帯の隙間から怪しく光る赤い眼でこちらを見据えていた。
 ベゼルは男を一瞥した後、重傷のフランをゆっくりと地面に寝かした。
「別にいいさ。殺した後に調べるからな」
 ベゼルは抜刀した。
「お前にできるかな?」
 男は人形のように顔を傾け可笑しく笑い、手に持つ特注の鎌を握った。
 初めに仕掛けたのは、ベゼルだった。
 剣を地面の上に走らせ、素早い一閃を男の足元から放った。
 男は傾けた頭の方へ身体を倒し、かわした。
 遅れて動いた黒衣の端は剣によって引き裂かれた。
「何故そんなに怒る?」
 男は足に力を入れて倒れる身体を止め。上から鈍重な動きで鎌を振り下ろした。
 ベゼルは咄嗟に盾を構え、身を庇った。
 だが、鎌によってもたらされた一撃は想像以上に重く。ぶつかり合った武具はにぶい音を放ち、周囲にこだました。
 ベゼルは鎌に押されながらも顔を引きつらせ、笑った。
「へっ、相棒がやられて黙ってられるほど利口じゃないのさ」
 ベゼルは盾を斜めに傾け、横に跳んだ。
 対象物を失った鎌は風を切り、刃の半分まで地面に突き刺さった。
「なるほど。つまらん男だ」
 男はゆったりとした動作で地から鎌を引き抜いた。
 べゼルは聞いているのか、聞いてないのか。剣の柄に力を込めた。
 そんなベゼルに、男は再び鎌を振った。
「脇が、がら空きだ!」
 ベゼルは迫る鎌の刃を通り越し、男の無防備な懐まで走った。
 勢いをつけたベゼルの剣は黒衣越しに男の肉を抉った。
「なるほど。筋は良い」
 男は身体に刺さった剣を気にせず、平然としていた。
「だが我には勝てぬ」
 男はベゼルの手と剣を片手で握ると、もう片方の腕で鎌を振り上げた。
 ベゼルは振り上げられる鎌を見上げ、必死に男の手を払おうとした。しかし男の馬鹿がつくほどの握力から逃れる事はできなかった。
「ここで死ね」
 振り下ろされた鎌はベゼルの鎧も肉も骨も関係なく切り裂いた。更に、重い一撃はベゼルの身体をいとも簡単に揺らし、吹き飛ばした。
 吹き飛ばされ倒れたベゼルは身体を強く地面に叩きつけられ、起き上がることができなかった。
「刃を逸らしたのか?」
 男は血の滴る鎌を見ながら、息絶え絶えのベゼルを見て言った。
「急所を狙ったつもりだった。苦しまぬように」
 男は一歩一歩とベゼルに近づいた。
「けれども死ねば、皆同じ!」
 男は鎌を振り上げ、振り下ろした。
 その時、確かにベゼルでも急所を外し生き残ったとしても。次の一撃で死ぬであろうことは分かっていた。それでも生への執着か、はたまた勝負を諦めない意地なのか知らないが避けた。
 朦朧とするベゼルは薄らぐ視界の中、中途で鎌を止める人間の姿を見た。
「戦いとは何が起こるか分からぬのぉ。そうは思わんか、ベゼル」
 筋骨隆々、スキンヘッドに長い白ひげ。そして何よりも着ている服はパンツだけの一張羅の姿。
 ベゼルは顔見知りだけど他人の振りをしたい格好の男が立っていたのに気付いた。
「カール大佐?」
「何!?」
 男は驚きの声を上げ、身体に似合わぬ跳躍力で間合いを離した。
「カール大佐。噂では過去の分からぬネツァワルの国王と古き戦友であり、『英雄の時代』の生き残り・・・ ・・・か」
 男は呟いた後。鎌を下段に構え、大佐に臆せず再び迫ってきた。
「ならば共に死ね」
 男はあえて大佐を狙わず、先にベゼルを倒そうと鎌を向けてきた。既に意識が無いベゼルには、避けられない。
「させると思ったか。若造」
 大佐は回りこみ、自身の両手武器でこれを受け止めた。
 長い柄の先にトゲトゲしい鉄球を持つ『エオスポロス』。大佐はその武器から片手を離すと、男に刺さった剣を捻って抜いた。
「ぐ、お」
 男は痛みで身体を崩し、再び後ろに跳んだ。
 大佐は抜いた剣を倒れているベゼルに返してやった。
「痛いか。今度は痛む暇をやらんぞ。そして、逃げ場もな」
 大佐が言うと、三人を囲むようにネツァワルの兵が近づいてきた。どうやら大佐が共に連れてきたようだ。
「ここは引いた方が得策か」
 男は凄まじい跳躍でオベリスクの上に飛び乗った。
「だが覚えておけ。これはただの序章に過ぎぬ。真の戦いは、これから」
 男は再び飛び退いて、崖の上に降り立った。
「我名はヴァン。エルソード国の兵である。復讐の為に・・・ ・・・また会おう愚か者ども」
 ヴァンと名乗る男は高笑いを残して崖の向こうに消えてしまった。
 

あとがき
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by inuis31 | 2007-04-26 00:22 | 小説

復讐と鬣のロンド 三

 三話 戦争の宴、前半


 見上げる高さの雲は気の向くままに浮かび、その間からは淀みの無い青空が見える。
 鳥が飛び、風がささやき、時間はゆったりと流れている。
 しかし地上では、空と対極であるような残虐な光景が広がっている。
 真紅の血が舞い、鉄の刃が踊り、戦場を覆う戦塵が充満している。
 場所は乙の字型をした崖の上、唯一無二の前線がぶつかり合い。激しい戦火が上がっている。
 だが崖の下は至って平穏で、暇そうなグラムの顔が見られた。彼女はマネージャーを通じ、既に新兵として戦場にいた。
「私達は戦わなくていいのですか。ベゼルさん」
「良いんだよ。これも作戦と役割の一つだ」
 グラムの隣には、若干眠そうな顔をしたベゼルがクリスタルの近くで腰掛けていた。
 戦争の方はと言うと、相変わらず押したり引いたりの決定打の無い駆け引きが起こるばかりであった。
 もちろん。それは崖上で行われている戦いのみのことである。
「例えば、崖下に降りてくる兵を少しづつ始末したり、オベリスク破壊や建設を目的とした一団の進行を阻止または遅らせたり。一番はやはりキマイラの足止めだろうな」
 つまり、暇ながらも重要な拠点であるのだった。
 グラムは聞いた後、健全たる顔で、
「よく分かりません!」
 言い切った。
「・・・ ・・・」
 これ以上説明する事も、説明の仕方を考えるのも面倒であったベゼルは問いを無視した。
 視線を逸らし、適当に動き回る眼球は、前線から押し出されるように落ちてくる女の兵士を捉えた。身形からして敵兵のようだ。
「短剣オンリーのスカウトみたいだな。距離とブレイク技に気をつければ大丈夫だろう」
 ベゼルは腰をあげ、手を叩いて土を払った。
 それは別に、戦いを始める準備などでは無く。単なる自然な動作であった。
「良し、行ってこい。グラム」
「ええ!? 何で私なんですか!」
 文句を言うグラムに眠そうで面倒臭そうな顔が振り返った。
「いいから行ってこい。実力試験だ。そして命令だ!」
「うわ、権力の横暴反対!」
 そう言いながらもベゼルは上官。グラムは部下。命令を逆らうと後が怖いので、グラムは歩を進めた。
 しかし、途中で止めた。
「行って何をすればいいのですか?」
 ベゼルは問うグラムに対して、不可思議な物でも見るような顔をした。
「決まってるだろう。殺すか、または死なない程度に痛めつけて捕虜にするかだ。だがな、捕虜なんて降参した相手ぐらいじゃないと無理だな」
 ベゼルは言い終わらないうちにグラムの背中を突き飛ばした。
「ほら、行け」
 心の準備も無く押された背中はよろめき、背中から地面に落ちて転がっていった。しばらくして、止まった。
 当然、敵のスカウトはグラムに気付き、視線を向けた。
「あ・・・あの」
 立ち上がったグラムは何故だか敵に剣を向けず、女のスカウトに声をかけた。もちろん相手は返事をしなかった。
 代わりに、素早く距離を詰めると両手の短剣を回転させ、グラムに切りかかって来た。
 グラムは突然の動きに辛うじて反応し、間抜けな格好で横に転がった。
「何するんですか!」
 戦場では当たり前の行動に、グラムは驚き叫んだ。それをベゼルは呆れた顔で眺めていた。
「おいおい。戦う気あるのか? 敵はハイドで姿消してるぞ」
 その言葉に、グラムは周囲を見回した。傍には攻撃を仕掛けてきたスカウトがおらず、グラムは完全に敵を見失っていた。
 未だ姿を発見できないグラムの後ろから、ハイドのスカウトはゆっくり近づいた。そして、素早い動作で跳びあがり短剣を振りかざした。
 しかし、更にスカウトの後ろには気配を見せずに移動していたベゼルがいた。
「おら!」
 振り上げた盾を渾身の力でぶつけ、スカウトは身体をくの字に曲げながらグラムの頭上を越えた。
「あまり調子に乗るなよ。それにしても、ハイドサーチもできないのか。グラム」
 グラムは恥ずかしそうに頭を掻いた。同時に吹き飛ばされていたスカウトが地面に強く叩きつけられた。
 スカウトは殴られた脇腹を擦りながらも、不時着からしばらく経たずに起き上がりベゼルを睨みつけた。
「そう睨むな。お前とコイツの茶番劇はもう終わりだ」
 急に、ヒュと乾いた音がしたかと思うと、女のスカウトに無数の矢が突き刺さった。
 スカウトは驚きと痛みを堪えながら身体をよじり、上を見た。
 そこには高台から弓を構えた兵士が複数と、ソーサラーの姿が見られた。
 女のスカウトは慌てて逃げ出そうと足を動かした。だが頭上から雷が落とされ、後ろから炎の一撃を喰らい。最後に逃げられないように氷で身体の動きが封じられた。
「留めは俺がやる」
 ベゼルは抜いた剣で後方の味方を制し、女のスカウトに近づいた。
 スカウトは息絶え絶えになりながらも、短剣を振り最後の抵抗を試みていた。
「・・・ ・・・」
 ベゼルは無言のまま剣を振って短剣を飛ばし、返す刃で首を突き刺した。そして、強引に捻って抜いた。
「う・・・ ・・・」
 声さえ出ない女のスカウトの代わりに、グラムは吐き出してしまいそうな呻き声を飲み込んだ。
 ベゼルは首から真紅の血を吹き上げるのを気にも留めず、グラムに振り返った。
「最初は気持ちが悪いだろうけど、そのうち慣れるさ。戦場で死をまともに受け止めると精神持たないぞ」
 ベゼルはグラムを気遣って声をかけた。
「どうしてですか・・・?」
 グラムは下を向いたまま、声を発した。
「人の大切な命を何でそんなに簡単に奪えるんですか!」
 グラムは、本気の顔で怒っていた。
 ベゼルは少し驚いた顔で、しかし漂々とした態度をしていた。
「何言ってんだ。兵士が敵を殺すのは当たり前だ。相手もこちらも国のためや、はたまた大切な何かの為に戦ってるんだ。同じ立場なのに哀れむ必要は在りもしない」
 すんなり言ってのけた後、少し寂しそうな顔をした。
「失った事が無いから言えるんです! そんな理由、私は認めません!!」
「そうか・・・ ・・・」
 ベゼルはゆっくり納得したような顔で頷いた。
「なら去るんだな。臆病な建前を通すお前に、戦場を駈ける資格は無い」
 ベゼルはそのまま後ろを向き、グラムの顔も声にも二度と反応しなかった。

「建前だけじゃ、平和を守る事さえもできないんだ」
 後ろからグラムの反応が消えたのを確認して、ベゼルは立ち止まった。
「けれども、グラムの言う事にも一理あるんだろうなぁ・・・」
 そう思うと、どうしようもなくグラムの言う事は正しく。ベゼルは自問自答に押し潰されそうになった。
 ただ、正しくても現実にならないだけの本当は当たり前に正解である願い。
「それでも俺は、守りたい全ての者の為に戦うしかない」
 諦めなのか決意なのか、どちらにしろ今はそれで良いと結論づけた。
 風が吹き、更に激化する戦いにその身を投じるために、ベゼルは再び歩き出した。
 

あとがき
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by inuis31 | 2007-04-22 17:29 | 小説

復讐と鬣のロンド 二

二話 木の棺桶


 箱の中には所狭しと敷き詰められた花と、少女がいた。
「・・・ ・・・は?」
 果物や野菜を入れるよりも死体を入れるのに適した。いわゆる棺桶という類の木箱の中に、それはあった。
 当然、開いた当人であるベゼルは驚いた。箱の中にいる少女はと言うと、死んだように、または死んでいて動かなかった。
 聞いただけではまさに王子様と眠り姫。そんな場面ができた原因は、ベゼルとフランが護衛した馬車にあった。

「あんまり品物に触ってくれるなよ」
「そう言われましても・・・、こちらもネツァワルの兵として積荷の検査をしたいのですが」
「うちの商品に怪しい物なんか無いよ! たく、国軍の兵だから送ってやると言ったが好き勝手されちゃ困るよ」
「いえ、こちらは一応護衛のつもりで―――」
「護衛は間に合ってるよ! 迷子さん」
「・・・ ・・・」
 慣れない丁寧語で適当に商人の機嫌を取ろうと思っていたベゼルと、未だに不信感を露にしている商人。
 結局の所、商人に二人が必要の無い場所にいる警備兵、イコール迷子の兵だと看破されてしまい。役には立たないと、馬車の後ろに追いやられてしまっている。
 ついでに言うと、馬車の後ろについて来るゴブリンやオークなどの調教された護衛に厳つい顔で監視されている。
「いや、やはり荷物の検査は兵士の務めだと・・・」
「商品に傷を付けたらアンタに請求するよ!」
「・・・いや、それは勘弁」
 汚名挽回とまで言わないが、兵士としての威厳を保つため任務に励もうと思うのだが。商人らしい言い返しに阻まれているのが現状であった。
 ベゼルは触らないで荷物を見回すと、エルソードで獲れる魚介類の干物やカセドリアで採られる珍しい果物類にホルディンの農民が作った新鮮な野菜までもあった。
 どれも食料のほとんどを他の国から来る行商人に頼るネツァワル国行きの商品だった。
 ただその片隅にある変わった形の木箱に違和感を感じたが、調べる事は出来ないので止めた。
 それにしても、
「眠いなぁ・・・」
 フランに連れられて散々迷い歩かされたベゼルは、体力の限界を感じていつの間にか横で寝ているフランに肩を貸して眠ってしまった。
 ―――それからしばらくして、
「ちょっと兵士さん。着きましたよ」
 愛想の無い声にベゼルは眼を開くと、馬車は既にベインワットの領内に入っていた。
 ちょうど馬車が止まっているのはグレートブリッジの中腹である。
「ああ、どうも送ってくださって」
「金にもならないお礼はどうでもいいよ。あんた兵士なんだろ。ついでだ、この木箱を王様に届けてくれよ」
 言い終わらないうちに商人は木箱と共に二人を馬車の外へ放り出した。
「さ、差出人は!?」
 ベゼルの意向を無視して遠ざかっていく馬車に向かって、精一杯の声で問いをかけた。
「さぁな。確かヴァンとか言ってたよ」
 商人は問いに対して吐き捨てるように答えると、馬車を引きつれ人ごみの中に消えてしまった。
「・・・参ったな」
 届けてくれといわれても一般兵士が王様に謁見する事の難しさは誰にでも理解できる無理な注文である。
 しかし、時々街に顔を出すエリス様ならまた別の話である。
 とりあえず、中身を確認しておこうと思い。ベゼルは箱の蓋に手をかけた。

「・・・ ・・・は?」
 ベゼルはまた呟いた。
 見た所、フランと同い年ぐらいの少女は花と一緒に入っていた。少女は栗色の長い髪を持ち、傍らには細身の刀剣『夕張』があった。
 ベゼルは少女が奴隷や怪しい実験に使うような商品かと思うのだが、身に纏う服装はやけに質が良い。
 ならば何故、どうして箱の中で眠ってベインワットに入って来たのだろうか。
 ただ一つ言える事は、
「これは、不法侵入という奴なのか?」
 その時、走馬灯にこの後の結果がベゼルの頭の中で過ぎった。
 不法侵入を許してしまったベゼルは減給に厳罰、酷ければ階級を下げられる。下手をすれば、少女を拉致するような非道と勘違い。そして退職。
 実際そうなるのか、ならないのか確証は無いけれども、ベゼルは最善の方法で事態を処理する必要があった。
 だが、
「よく寝た~」
 頭を捻って考えていたベゼルを無視して、少女が起き上がる展開が起こってしまった。
 半身を起き上がらせ、眠そうな顔で周りを見る少女とベゼルの眼が合った。
「・・・ ・・・」
「・・・ ・・・」
 一瞬、沈黙が漂った。
「な、名前何て言うんだ?」
 とりあえず周りの視線が少ないといえども、沈黙を守っている訳にはいかず、ベゼルの方が口を開いた。
「グラムです。あなたは?」
「俺はベゼル」
 と、悠長に自己紹介。
「むぅ」
 そんな最中で終にフランが起き上がった。
 フランも半身を起こし、眠そうな顔で周りを見ると傍の二人に眼が合った。
「・・・ ・・・」
「・・・ ・・・」
 再び沈黙が流れた。
「その子、誰?」
 何故か飛んでる小さい虫が落ちてきそうな殺気を放ちながら、フランは訊いた。
 問いかける言葉は驚くほど静かだが、鎮魂歌のように聞こえ逆に怖かった。おそらく、ベゼルが見た走馬灯の後者の理由が怒らせているであろう。
「待て、怖すぎるぞフラン」
「私は至って正常ですよ?」
「口調、変わってるんですが」
 怖い、本当にフランが怖い。ベゼルはフランから距離を離し、橋の瀬戸際まで後退して策を考えていた。
 理由も言えないベゼルに、フランは段々と顔を強張らせていく。ベゼルは色々な意味で「ここまでか!」と思ったのだが、
「あの~・・・、新兵募集はどこでしょうか」
 遠慮深いグラムの言葉がベゼルを救った。
「へ?」
 ベゼルは驚いて、フランは「ああ、そうか。早く言えば、良いのに」と先輩面して、グラムはキョトンとしていて・・・、
 つまり万事が上手くいった。
「私、住む国もなくて難民に近いんです。だから国に仕えたい、と思って」
「そうか。なら、こっちに来て」
「・・・ ・・・ははは、フラン。人を疑うのは良くないぞ!」
「うるさい。一遍、パニっとく?」
「すいません」
 ベゼルとフランとグラムは愉快そうに話しながら、棺桶の傍を離れていった。
 残された棺桶は半分開いたまま、強い風に吹かれ蓋が空中を舞った。
 蓋の裏側に書かれた『Vengeance』の大きな血文字は誰にも読まれず、川の中に落ちて沈んでしまった。

あとがき
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by inuis31 | 2007-04-18 01:04 | 小説