小さなミスターがネトゲやリアルで奮闘する御話


by inuis31
カレンダー
S M T W T F S
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

復讐と鬣のロンド 九


 九話 決戦の序章


 光の無い暗闇で、男は笑っていた。
 大柄なその男は全身に汚れた包帯を巻き、異様に眼を紅く光らせていた。
「血が沸き、肉が蠢く。心が鼓動し、魂が鳴動する。楽しみだ。これから起こる惨劇を思うと・・・ ・・・」
 男は大きな片手で顔を覆い、含み笑いをした。
 その後ろの、暗闇の更に向こう側で無数の兵は物言わず、沈黙を守っている。
「さぁ始めよう。滑稽で単純で残酷な劇を―――」
 男は両手を挙げ、見えない天を仰いだ。呼応するように、後ろの兵たちは前進を始める。
「我の望みは復讐だ」
 男と兵の一団は闇から光の当たる場所へ突き進んだ。

「あー、怠けすぎだな」
 間抜けな声が聞えた。
 重い鎧を身体に固定し、引きずるようなベゼルが声の主である。
 身体が重いのか辛いのか、顔には疲労の色が見える。
 歩く場所は見慣れたベインワットの洞窟内。朝の通りは商人、兵士、主婦、メイドが相変わらず忙しく流れている。
 いつもの通りの様子と違うのは、王宮に仕える人間の類がいつもより多い事ぐらいである。
「資料はアンさんに返した。大佐に完治の知らせはした。途中でフランに襲われた。と、今のところ計画通りか」
 三つの項目の内、最後の一つは疑問的であるものの。ベゼルは過去の情報を頭の中から消去した。
 そして、唐突に懐から手紙を取り出した。
『明日の朝、グレートブリッジで待っています。byグラム』
 その朝が今日なので、ベゼルはナメクジにも劣る足で向かっている。
「待っている、か。そういえば最近グラムが落ち込んでいるらしいから、それか? でもフランの情報は十回言ったら全て嘘だからな」
 ぶつぶつと呟きながら、ベゼルは既にグレートブリッジ前の門に立っていた。
 大きな門は閉めるのも億劫なので、相変わらず開いていた。
「・・・ ・・・?」
 ベゼルは開いた門の前で訝しげな表情をした。
 何故かは知らないが、自分の胸の奥に潜む本能が危険信号を挙げている。
 危険信号は胸の奥に止まらず、視覚的にも現れた。それは、誰もいないグレートブリッジの光景である。
 通常なら商人が声を張り上げて品物を売り、その商品を下見する冷やかしの客が歩き、雑談に熱心な若者達が鎮座している。
 それが、今は一人残らずいないのだ。
「まさかな・・・ ・・・」
 フランはともかく、グラムがここまで異質なイタズラをするとは思えない。
 門を抜けたベゼルは右手に剣を当て、慎重に橋の真ん中を歩き始めた。
「久しぶりだな。小僧」
 ベゼルの進行方向から、一度は聞いた覚えのある重く低い声が響いた。朝特有の白い靄に隠された向こう側には、確かに誰かがいた。
 旋風が吹き、靄が飛び、現れたのは兵士の一団と大柄な男だった。
「ヴァンだな」
 ベゼルは右手を振り上げるように剣を抜き、構えた。
「こんな山の中に何の用だ。迷子か? それとも玉砕の覚悟か」
「前者は小僧の相棒と同じではない。と、返そう。後者は我だけの一団では勝てない。と。返そう」
 ベゼルは「我だけの一団」の言葉が妙に引っかかり、まるで他にも多くの仲間がいるような言い方であった。
 しかし、ベインワットは自然の要所に守られ、大軍を阻む。ありえない。
「それはそうと、この小娘はどうしようか」
 ヴァンは自分の斜め右下を指した。そこにいたのは―――、
「エリス様!」
 彼女に気付いたベゼルは驚愕の顔を作り、それはすぐに怒りの表情となった。握られた剣は、更に強く圧迫され軋んだ。
 そのベゼルの姿に、ヴァンは鼻で笑った。
「ふん。この小娘は人質であり保険だ。我の復讐の代償には取るに足らない犠牲だ」
「復讐?」
「そうだ」
 ヴァンは笑いながら両手で空を仰いだ。
「クックック、復讐だ。それこそ我の成すべき事だ。我ら貴族を妨げ、財産も地位も誇りも奪い去った国に罪の精算を促す。そのために、我はエルソードに入隊した」
 ヴァンが言う復讐なら、確かにエルソード以外の国がそれに当たる。
 例えば、貴族の優遇処置を廃止したゲブランドにネツァワル。
 例えば、貴族に反乱を起こし主権を奪ったカセドリアとホルディン。
 その四つの国に復讐すると言うなら、やはりエルソードが適任であろう。
 だが、
「くだらないな」
 ベゼルはその一言で一蹴した。
「なんだと・・・ ・・・」
 自分の信念を侮辱されたヴァンは、表情に出さずに怒り。その代わりに顔が凄みを増した。
 ベゼルはそれでもヴァンに口を開かす隙を与えず、言葉を続けた。
「復讐だ仕返しだなど、くだらない。失う自分が悪いだろ。守れない自分が原因だろ。悲劇のヒロインやヒーローを気取るなよ!」
 ベゼルはズバリとヴァンを指差した。
 言われた当人のヴァンは怒っているのか悔しいのやら、水面の鯉のように口をパクつかせた。
「それに、復讐の為に身体を捨てたお前が許せない」
 急に話題を変えたこの言葉は、ヴァンに冷水を被せる効果が眼に見えるように表れた。
「・・・ ・・・何時知った」
「近年行われた錬金術の成功例と考察。の資料に名前が書いてあったよ。錬金術史上初の人体実験の成功だとな。学問に国境は無いと言うけど、調べた甲斐があった」
「何故錬金術関連だと?」
「お前から出る腐臭さ。キマイラと同じ臭いだよ」
 澄ました表情でベゼルは語り終え。入れ違うようにヴァンは含み笑いを浮かべた。
「流石は、と言っておこう。だが、我の正体を知ったところで何も変わらぬ」
「そうでもないぜ」
 ベゼルはそう言って、視線をヴァンの斜め右下に動かした。
 釣られるようにヴァンも見ると、そこには先程までいたエリスがいない。
「なっ、何処に行った!」
 ヴァンは部下に向かって吼えながら、周りを見回した。すると、答えは自分の眼からすぐ返ってきた。
 ちょうどベゼルの横で、エリスは不自然に浮いていたのだ。
「ご苦労フラン」
「どういたしまして」
 ハイドを解いたのはフランであった。
 ベゼルが饒舌を披露している隙に、フランがハイドで接近しエリスを奪還していたのだ。
「このおぉ!」
 明らかにベゼルの手の内で戦況が変化していた事に、ヴァンは苛立った。
 苛立ったが、その顔は突如として笑みに変わった。
 それはまるで、面白可笑しい物を見つけた餓鬼のようであった。
「そうだそうだ忘れていた。紹介しよう。我と共に復讐を果たす家族だ。小僧達も良く知っているはずだ」
 ヴァンは後ろに手招きをした。そこから恐る恐る出てきたのは、
「さぁ、グラム。復讐を果たそう。」
 ベゼル達の知るグラムだった。
 まるで立ち位置を間違えたように、平然とその場にいた。
「ごめんなさい。皆」
 ベゼルは手を握り締め、怒りが溢れようとするのを抑えた。悲しみも混じった―――それを抑えた。
「気にするなグラム。今は敵であろうとも、お前は俺の大切な仲間だ」
 ベゼルはグラムの姿から眼を背け、ヴァンに向き直り、剣を構えた。
「行くぞヴァン!」
「掛かって来い小僧!」
 悲しみと怒りを背負った戦いが、幕を切って落とされた。





 自転車に乗りながら、「もうホタルが飛ぶ時期なんだなァ~」と感慨深く思っておりました。


 ・・・ ・・・


 久しぶり? です。チスターです。(ナニ イマ ノ マ)
 今回の九話。実は九話と十話の話を無理矢理詰め込んだものです。
 おかげでまとめるのに時間が掛かりましたwww
 まァ、ですがそろそろ「復讐と鬣のロンド」に決着の時が近づいております。
 おそらく@二話で終わると思います。
 できれば六月中に終わらしたいな~、とも思っております。
 さて、面白みも無いあとがきもあと少し。
 ガンバリマスw
[PR]
by inuis31 | 2007-06-05 22:05 | 小説